島根県「がん対策推進条例
本文へジャンプ 平成18年9月25日 


  

島根県「がん対策推進条例」提案理由


                       島根県議会議員 佐々木雄三


本日追加提案しました議員提出第8号議案島根県「がん対策推進条例」についてご説明申し上げます。

まず、この場をお借りして、全国「がんと共に生きる会」の会長を務められました、故佐藤均様の多大なる功績を偲び、ご冥福をお祈りいたします。

また、佐藤様の御意志を引き継がれ、活動を続けておられる奥様をはじめ、患者会関係者の皆様のご活躍に感謝と敬意を表する次第であります。

はじめに、この条例を提案するに至った経緯について一言申し上げます。

がんは昭和56年以降現在まで、日本人の死亡原因の1位となっており、死因に占める割合は上昇し続け、30%を超しております。

島根県でも、昭和59年からがんが死亡原因の1位となっており、平成14年以降は、人口10万人当たりの死亡率が全国2位となるなど、対策が急がれております。

平成15年8月「がんと共に生きる会」の島根代表を務めておられました佐藤均氏から「抗がん剤治療専門医の早期育成を求める請願書」が県議会に提出されました。これが、がん患者の皆様の声が、この議会の場に届けられた最初であります。

県議会としては、この請願を採択し、国に対して意見書の提出を行い、また、全国議長会を通じて国に要望を行っております。

私自身もそれまで、がん医療に関心がなかった訳ではありませんでしたが、その後、佐藤氏を中心とする患者並びに患者家族の皆様と行動をともにしていくうちに、がん治療・医療の実態には様々な問題、課題があることがわかってまいりました。

がん医療には、大きく分けて手術療法、放射線療法、薬物療法と3つの分野がありますが、手術療法は最も取り組みが進んでおり、本県でも多くの医療機関で行われております。

しかし、放射線療法や薬物療法では専門医が少なく、特に薬物療法の分野では、当時県内に専門医といわれる医師は極めて少ない状況でありました。

そのため、県内では充分な治療手段がないと言われたり、保険適用薬しか扱わない等の理由で、充分な治療効果を得ることができない方々も多くおられました。

一部の患者さん方は、様々なつてを頼り、あるいは情報を得て、東京、大阪、などの専門的治療を行う医療機関に通い、なおかつ、保険が適用にならない、高額な外国製の抗がん剤を使った治療を、多額の経費を使って行う状況でありました。まさにがん医療における、地域格差と言う状況がありました。

東京、大阪に住もうと、この島根に住もうと、命の重みに違いはありません。そこに使える薬があり、既に外国では実績があっても、日本では承認されず、保険適用外となり、ごく1部の人しか使えない。

このような状況を何とか変えようという信念で、佐藤氏は自らもがんと戦いながら、全国「がんと共に生きる会」の会長として、患者の立場からがん治療の格差の是正に向け、当時のがん医療改革のために、最後まで力を注がれました。

このことが、国のがん対策を大きく進めることとなり、がん診療連携拠点病院の指定、専門医の養成、抗がん剤の早期承認などの取り組みへと、つながっているところでありまして、現在県内では6つの病院が、拠点病院として指定され、連携強化が図られております。

また、患者さん方の交流を行なう拠点として、患者会、医療機関を始めとする関係者のご努力により、県内の病院内に6箇所、地域に3箇所の「がんサロン」が開設されました。今後、患者さんの療養生活をサポートしていく、大きな存在となると期待されています。

さらには、国、都道府県等が、がん対策を一体となって進めていくための「がん対策基本法」が今年6月に公布されましたが、これもひとえに佐藤氏をはじめ、患者会の皆様の真剣な取り組みの成果だと、私は信じております。

残念なことに佐藤氏は昨年6月亡くなられ、この法律の成立を見届けることはできなかったのですが、この法律の制定により、今後の日本のがん医療が大きく変革をしていくでしょうし、また、変わっていかなければなりません。


次にこの条例を提案する理由を申し上げます。

日本のがん医療を大きく動かすべく、発信をし続けた島根の地において、まず何よりも、がん対策基本法の趣旨を前向きに受け止め、県民、医療機関、行政などが一体となって、がんの予防及び早期発見、がん医療水準の向上、療養生活の質の向上といった、がんの総合的な対策に取り組むことが必要であると考えます。

現在もがんと闘っていらっしゃる患者の皆様、患者家族の皆様の長年の願いである、全国どこでも同じように受けられる、適切な医療の質、安心できる療養生活は切実なものであります。

個々具体的なことは、今後県で作成される「がん対策推進計画」の中で、関係者の皆様と十分に検討され、策定されることとなりますので、本条例は、これからの島根県のがん対策を進めていく「より所」として、また、この計画の実行を後押ししていくための、基本的な方向を述べたものであります。

がん対策に、全県を挙げて取り組んでいくという姿勢を、この条例において示し、県民生活の向上が図られることを願うものであります。

この条例の提案にあたっては、議員の皆様の賛同を得られたことをここに感謝をいたしまして、提案理由とさせていただきます。











「島根県がん対策推進条例」

(目的)

第1条

   
この条例は、がんが県民の疾病による死亡の最大の原因となっている等がんが県民の生命及び健康にとって重大な問題となっている現状にかんがみ、質の高いがん医療(科学的な知見に基づく適切ながんに係る医療をいう。以下同じ)の実現並びにがんの予防及び早期発見の推進を図るため、がん対策を総合的に推進することを目的とする。



(がん医療の水準の向上)

第2条

   
県は、がん診療連携拠点病院(厚生労働省が定める指針に基づき厚生労働大臣が指定する病院をいう。以下同じ。)その他の医療機関等の間における連携協力体制を整備すること、医療機関におけるがん医療を提供する体制の強化を支援すること、医療機関に対してがん医療に関する情報を提供することその他の県内におけるがん医療の水準の向上のために必要な施策を講ずるものとする。



(県民に対するがん医療に関する情報の提供)


第3条 

  
県は、県民に対して県内のがん診療連携拠点病院のがん医療に関する機能その他のがん医療に関する情報の提供を行うために必要な施策を講ずるものとする。



(がん予防及び早期発見の推進)


第4条

   
県は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣及び生活環境が健康に及ぼす影響に関する啓発及び知識の普及その他のがんの予防の推進のために必要な施策を講ずるものとする。

 県は、がんの早期発見に資するよう、がん検診の方法等の検討、がん検診に携わる医療従事者に対する研修の機会の確保その他のがん検診の質の向上等を図るために必要な施策を講ずるとともに、県民のがん検診の受診率の向上を図るために必要な施策を講ずるものとする。


第5条

   
県は、地域における緩和ケア(疾病による身体的な苦痛並びに精神的及び社会的な不安の軽減を主たる目的とする医療、看護その他の行為をいう。以下この条において同じ。)に関する関係機関及び関係団体の間における連携協力体制の整備の支援その他のがん患者に対する緩和ケアを推進するために必要な施策を講ずるものとする。




(患者会等の活動の支援)

第6条

   
県は、がん患者、その家族等により構成される県内の民間団体(第8条において「患者会等」という。)が行うがん患者の療養生活及びその家族の生活に対する活動を支援するために必要な施策を講ずるものとする。



(県民の理解及び関心を深めるための施策)

第7条

   
県は、県民のがん対策に関する理解及び関心を深めるため、広報活動その他の必要な施策を講ずるものとする。




(国等との連携)

第8条

   
県は、国、市町村、医療関係団体、医療機関、患者会等その他の関係機関及び関係団体との連携を図りつつ、がん対策を推進するものとする。



附 則

この条例は、公布の日から施行する。