「あおくん と きいろちゃん」
作/レオ・レオーニ
訳/藤田圭雄
至光社
私はこの絵本ほど、簡潔な絵と言葉で感動を与えてくれる絵本を他に知りません。

タイトルの「あおくん と きいろちゃん」と書かれた表紙に青い玉と黄色の玉がふたつだけ、少し重なって描かれています。
これだけでは何のことだか解りません。
ところが表紙をめくり、扉をめくってドキッとします。
そこには紙に青の絵の具をぽたりと垂らしたような、丸い染みが一つだけあります。
そして、この何の変哲もないただの染みが「あおくんです」のたった一言で命を吹きかけられるのです!
このあおくんは、たちまち小さな男の子になってしまいました。
物語は言葉の魔法で、ただの青い染みの玉が人格を持った「おおくん」をどんどん生み出していくのです。
あおくんはどこにでもいるやんちゃな男の子かもしれません。その証拠に留守番をお母さんから頼まれたのに、仲良しのきいろちゃんのお家に遊びに行ってしまったのですから。

あおくんときいろちゃんは飛んだり跳ねたり。友だちとも一緒にかくれんぼやかごめかごめをして楽しそうです。
二人は共に楽しい時を過ごし、心と心のふれあいに喜びを覚え融和し、ひとつの緑色の玉になりました。
楽しかった気持ちや友だちとの連帯感。そんな幸せな気持ちを胸にいっぱい詰め込んで、二人はそれぞれの家に帰りました。パパやママにこの気持ちを報告したかったに違いありません。
ところが緑になったあおくんときいろちゃんを、我が子だと解らずに、あおくんの両親もきいろちゃんの両親も「うちの子じゃないよ」と二人を拒絶してしまいます。
子どもにとって最も悲しいことは、親に(特に母親)あるがままの自分を受け入れてもらえないことでしょう。
レオ・レオーニは、この子どもの悲しみを、緑の玉から青と黄色の紙ふぶきが飛び散るように描いています。
まるで心がこなごなに壊れ、涙を流しているようです。
文中にもこうあります。
「おおつぶの あおい なみだと きろい なみだが こぼれました」
「ないて ないて なきました」
「ふたりは ぜんぶ なみだになってしまいました」
絵本を見ている子どもたちの表情も今にも泣き出しそうな顔をしています。
この色の玉に自分を重ねているのです。
でも、だいじょうぶ!涙になった二人はもとのあおくんときいろちゃんに元通り。
二人を抱き上げ、重なったところが緑色になりました。
やっと訳が解った親たちも嬉しくて、やっぱり緑色になりましたよ。
パパやママたちも、なかなか帰ってこないあおくんやきいろちゃんのことが心配だったに違いないのですから。

初めてこの絵本を手にした時、ただの色の玉に、こんなにも簡単に感情移入が出来てしまうことが不思議でした。
この作品はレオ・レオーニが、アトリエで創作をしていた時、尋ねてきた孫たちにせがまれて誕生した、偶然の産物だったという逸話が残されています。
おじいちゃんであるレオと孫たちとの心のふれあいが、そんな奇跡を生み出したのかもしれませんね。




TOP   NEXT