「つきよ」
作/長 新太
教育画劇
長新太さんの絵本は子どもに大変人気があります。
私も大好きで、よく子ども達に読み聞かせをしました。
子ども達を惹きつけて放さない長新太さんのナンセンスユーモアは、絵本を読み終わった後に
ほっこりとした安心感と、心の中に暖かいものが満たされていく幸福感があって、とても心地いいのです。

物語は三日月が綺麗な夜にそっと始まります。
子狸が家に帰る途中、三日月が山肌をすーーっと滑り台のように滑って行きました。
子狸は驚いて、思わずお腹を両手できゅうっと掴んでしまいます。
それまで夜中に、一人ぼっちで家路についていた子狸の、物寂しい雰囲気が一転し、好奇心いっぱいの小さな読者を、ワクワク、ドキドキの冒険の世界へと誘い込んでいきます。
見ると子どもたちも子狸のようにぎゅっと手を握り締め、固唾を呑んで絵本に釘付けになっています!
子狸が三日月の後を追いかけて行って見ると、月は池の中で浮いていました。
子狸が見ているのを知ってか知らずか、三日月は池の中で船になったり、島になったり。
魚釣りをしたり、鳥の滑り台になって上げたり、橋になってその上をザリガニが嬉しそうに万歳しながら渡って行くのを見たり・・・と、まるで三日月のワンマンショーを子狸はたった一人で見ていたのです。

そして、最後のページで子狸はこう言います。
『いけは もりの おくのほうに あるので、せかいいちの たんけんかだって みつからないと、ぼくは おもいます。』

そうです!これは子狸だけが知っている秘密なのです。
誰にも知られたくないけど、大好きな人にはそっと教えたくなるような秘密。
自分ひとりの宝物にして仕舞っておきたいけど、ちょっとだけなら見せてあげてもいいと思える、あるいは自分だけが知っているという優越感なのです。

そして、最後まで絵本を楽しんでいた子どもたちは、隣に座っていた子と、子狸しか知り得ない秘密をすでに共有して楽しんでいます。

何だかくすぐったくて、特別なムードを持った「秘密」を、この絵本ではユーモアに包まれて楽しむことが出来ます。
 



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