2,権利条約は子どもが目の前にいればいつもそこに存在している。
3,権利の関係
7,関係条文
8,終わりに
☆日常の学校生活でよく出会う子どもの権利とは
第2条 差別の禁止 第3条 子どもの最善の利益の考慮
第5条 親などの指導・助言の尊重 第12条 意見表明権
第13条 表現・情報の自由 第14条 思想・良心・宗教の自由
第15条 結社・集会の自由 第16条 プライバシー・名誉などの保護
第19条 親などによる虐待・放任・搾取からの保護
☆第12条 意見表明権について
(1)意見表明権は、 権利行使能力を保障するための権利
大人は第3条から子どもの最善の利益を考慮しながら子どもと生きていくことが条約の精
神であるが、なにが子どもにとって最善の利益になるのかを決める場合、大人がそれを一方
的に決めてしまうのは、果たして条約の精神に乗っ取っているかは疑問である。場合によっ
ては大きなお世話になってしまうこともある。大きなお世話ならまだよいが、権利侵害にな
ってしまっては本末転倒である。それゆえに子どもの意見を聞く機会を保障することは必要
不可欠である。
(2)意見が言えない子はどうしたらいい?
幼児や小学校低学年の子どもはうまく自分の要求を口に出せない。そんな子に限りどうし
ても権利が侵されてしまいがちである。大人はよくよく内面の機微に触れ意見表明権を保障
してやらねばならない。
☆市民的権利(12〜16条)と28条 教育への権利 29条 教育の目標との関係
(1) 12〜16条は子どもを大人と同じ市民ととらえた画期的な条約(市民的権利)
12〜16条は社会ではまだ未熟な存在として保障されていなかった権利を認めたものであると思う。
しかし、わがまま助長論・社会混乱論などと共に学校ではなかなか認められない現実がある。
(2) 28、29条の捉え方を確立していく必要がある。
28条の2「締約国は、学校における規律・懲戒が、子どもの人間的尊厳と一致する方法
で、かつ、この条約に適合した方法で運用されるようにするために、総ての適切な措置をと
らなければならない。」とあり、その中に学校における規律という言葉がある。英語では
「デイシプリン」(DISCPLINE)しつけ・規律・訓練・懲戒という意味であり要す
るに集団規律のようなものであると思う。この「デイシプリン」だけみると“今までやって
きた指導で良かったんだ”と捉えてしまってはいけない。大切なのは市民的権利を踏まえた
上での「デイシプリン」でなくてはならないのであって、問われるのはその内容と方法であ
る。また、それは第5条の子どもへの指導・助言についても同様なことが言える。
29条の1の(a)
児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること
考えたこと:他校では高学年は許可という学校もあり、法的な基準など何もない。ただ、私と
しては子どもの実態を考えて第5条に照らし合わせた指導のつもりである。
《 遠足のしおり 》持ってくる物にお茶と記載
私 :普通ご飯食べるときにジュース飲まないだろう。日本人ならお茶だよ。(説得力に乏しい)
子ども:家ではジュース飲んでいるよ。給食の時だって牛乳じゃない。
結 果:まあ、欲しい人はもって来てもいいよ。(やったー)でも普通お茶だぞ。
考えたこと:子どもの日常生活が昔と違っている。子どもと大人の感覚、味覚の違いを感じる。
しかし、このままではお茶という文化は衰退の一途をたどっていくのではないだろ
うか。お茶が大人の生活の中でも消えつつあると言う社会背景。外国文化の流入。
給食での牛乳には子どもの方に理がある。学年部のことであったのでこちらで判断
し、学年部の先生に事後承諾してもらった。
《 学校のきまり 》掃除中は、体操服でそうじを行う。
私 :そうじ中は、服が汚れるから着替えてやりなさい。
子ども:別に汚れてもいいもん。もう汚れてるもん。
私 :お母さん大変でしょう。
子ども:お母さん洗濯してくれるもん。
私 :その場にあった服装というのがあるだろう。家庭科でも勉強したでしょう。
子ども:それなら先生も着替えんと。
私 :でもこのルール全校で守っているし、君だけ守らないわけにはいけんでしょう。
結 果:こちらの意見で押し切る
考えたこと:他校では自由服であるためにそのままそうじも行っている例もある。子どもの制
服そのものも確かに昼休みまでにずいぶん汚れており、むしろ体操服の方がきれい。
子どもに要求するのであれば教員も着替えなければならない。きまりだから守りなさ
いというのは子どもが納得したきまりではないだけに説得性がない。
《 学校の決まり 》登校時は制服で来る
生徒指導:最近朝に体操服で来る子がいるから注意して欲しい。
朝礼時に聞く
子ども:なんで制服じゃないといけんの。
私 :その場にあった服装があるし、みんなが守っているでしょう。(言っている自分が情けない)
子ども:なんで○○小は自由服じゃないの。
私 :前にお家の人にアンケートを取ったら制服派の人が多かったから。
子ども:そんなら僕たちの意見はどうなるの?
私 :そうだよな。よし、今度そういう話し合いがあった時先生が言ってやる。
考えたこと:登校時来るのに体操服であってはならないことになんの意味もない。ただ、集
団のきまりだからということで押しつけられることはまさに管理教育。その後
彼は体操服できている。制服問題に関しても子どもの言うとおりである。制服
自由化が進む中で保護者の意向だけで決めていくのは方法として子どもの権利
条約の精神とは異なる。
《 学校のきまり 》プール時は、ゴーグル着用
子ども:ゴーグルをつけて水泳がしたい。
私 :目を開ける訓練もあるからだめ。
子ども:目が痛いから。
私 :薬が入っているから少し痛くなるかもしれないけど大丈夫
子ども:えー(不満)
考えたこと:@と同じで基礎的な力を身につけさせたいためにゴーグルの使用を学校では禁止し
ている。しかし、それが苦痛であるならば果たしてゴーグルを着用させないのが良
いことであろう。
(2)児童会活動での子どもたちの意見表明
《 内 容 》今まで給食時にアニメのビデオが週2〜3回程度流れていた。
給食中に見ながら食べるのはどうかとクレームがつく。
放送委員会は、担当の先生からの支持を受け止める。
↓
代表委員会で学級の要望として提出「ビデオを再開してほしい。」
↓
返答として「給食中テレビを見ると遅くなるので禁止します。」
↓
学級で報告、「それじゃあ、普通に食べればいいんだな。」
↓(児童総会で言うように指示)
児童総会で代表が意見発表「普通にマナーよく食べるので再開してほしい。」
↓
放送委員会:「担当の先生に聞いてみる。」
考えたこと:委員会活動の場合代表委員会、児童総会が機能している限り子どもの要求は積極
的に出すことができる。しかし、それを指導する教師サイドの意識が変わらなけ
れば子どもの意見は実現できにくい。また、この件のように子どもの意識の中に
担当の先生に聞いてからではないと行動できないものが作られている。「先生の
意見のまま無批判に動く」という意識をなんとかしたいものである。
(3)学級内での意見表明の数々「わがままをいう権利・失敗をしてもよい権利」
子ども:先生、社会いやだ。学活か体育しよう。
私 :何で?
子ども:社会おもしろくないもん。(確かに内容もグラフなどの読みとりが多く難しいし、教
教科書の学習が多い。)
私 :そんなわがままいってはいかん。(おさえこんでしまった。最悪のシナリオである。)
考えたこと:子どもにっとって楽しい授業を第3条の精神からいっても教師は実践していかなけ
ればならない。そのためにも教材研究が欠かせない。力量不足もあるが、教材研究
の時間を確保していくことは子どもの権利を大切にすることであると思う。
B子:先生男子が嫌なこといっていやだ。もう教室行きたくない。
私 :男子ってだれ?
B子:A君。
私 :それじゃあ、男子でなくてA君だね。A君に話をしてみるからまた何かあったら教え
て。(納得する。)
B子:(数日後)また、言ってくる。
私 :(人のいやがる言葉ということで学級指導をすることを考えB子にそのことを話し、納
得する。
(結果)学級指導をアンケートを使ったりして授業を考えた。その後の感想でこの授業をやってよ
かったとB子が感想で書く。
考えたこと:子どものけんかトラブルはよくあることである。もちろんこれがいじめに発展する
場合もある。特に人権に関わることなので第5条と関連すると思うが発達段階に沿
って慎重に対応してやらなければならないと思う。この件の場合対応の仕方として
は、A君を呼んで話すこともできたかもしれないが、A君、B子、学級全体にとっ
てもっともよい指導はと考え授業で考えさせることをした。
第5条 締約国は、児童がこの条約において認められる権利を行使するに当たり、父母若しくは場合
により地方の慣習により定められている大家族若しくは共同体の構成員、法定保護者又は
児童について法的に責任を有する他の者がその児童の発達しつつある能力に適合する方法で
適当な指示及び指導を与える責任、権利及び義務を尊重する
子ども:先生4年生の時にやっていた会社が作りたい。(集会が開きたいのである。)
私 :会社って何?
子ども:やりたい人だけが集まって好きな会社を作って集会とかするの。
私 :でも集会なら集会係もあるから、こんな集会をしてと希望を出せばいいと思うけど。
それにみんなで話し合って係りを決めたのに今また会社をしかも集会係と同じような
ものを作るのはみんな納得しないと思うよ。
子ども:でもやりたい。
私 :それじゃあ議題ポストに入れてみて話し合ってみたら
(話し合いを持った結果、集会係りが2つになるということで否決される。)
考えたこと:その考えはわがままだ。なぜなら、集会係りがあるではないか。と一喝してしまっ
たらおそらく、子どもの中には不満が残る。確かに彼の意見は自分が集会を開き
たいために少しわがままな意見であったかもしれない。しかし、それを取り上げ
学級会でみんなで話し合ったことで彼も納得してくれた。子どもの意見は子ども
に返すことで要求がぶつかり合い民主的に学級が運営できる部分があると感じ
た。ただし、その度に学級会を開かねばならず学活の時間がかなり多くなる。
私 :準備運動の代わりにじゃんけんおにをします。(ワーイ)
1班と2班はグーチーム、3班と4班はパーチーム、5班と6班はチョキチームです。
(何も不平を言う子なし。内心ホットする。もし不平を言う子がいれば意見表明として取り上げみん
なで判断しなければならない。そうすると時間がかかってしまう。)
子ども:先生、またパーチーム嫌だ。
私 :この前もそうだったっけ?
子ども:うん。
私 :じゃあ、どうすればいい?
子ども:他のがいい。
私 :みんながそれでいいなら先生もいいよ。
子どもB:そんなのどうでもいいじゃん。早くやろう。
私 :ちょっと待って、じゃあ、3、4班はチョキにしていいですか。
子ども:いいよ。
考えたこと:何かをしようとしたとき少しのことでも要求をしてくる子どもは必ずいる。その時はた
して、教師はどのように考えその子に対応していけばよいのだろうか。この例の場合の
対応として次のように子どもへ返す場合が多くないだろうか。
〔この子の言動をわがままとして考えた時〕
「別に何チームでも同じじゃない。これでいくよ。」と押し切る。
〔意見表明権として考えた時〕
「どうして、パーチームはだめなの。」と聞き、理由によって全員で話し合う。
「急いでるから、今日はこれでがまんしてくれないかなあ。ごめんね。」
この子の意見は確かに大人の目からするとどうでもいいことという様に考えてしまいが
ちである。しかし、理由を聞くとこの子にとってはこの前と同じであったことが許せな
かったのである。たとえ、子どもの意見がわがままに由来するものかどうかを見極める
のは難しい。たとえ、わがままであったとしてもそれを言う権利は保障されなければな
らないと思う。教師はどんな小さなことにも耳を傾けるべきではないだろうか。
☆子どもたちの意見表明権を生かすには?
@ 児童会活動を組織し、子どもと教員が対等に話し合える場の設定。
A 学級の場合は話し合い活動でそれぞれの立場から意見を出し合い合意を作って行くしかない。
B 教員の意識変革(規範意識・常識という名で無条件に押しつけていないか)弁護士を呼んで子ども
の権利条約の研修会などを開く。
@ 休み時間の保障
内 容:児童集会が近づき、用意が遅れていた。特に、物の準備は終了したが当日全体の縦割り班
の動きを児童に知らせ、練習が必要であった。そのために6年生の班長に昼休み動きの練
習をします。と昼休み校庭で動きの練習をさせた。
考えたこと:子どもたちにとって昼休みはとても貴重な時間である。しかし、学校現場では委員会
活動や学習などで休み時間を保障されてはいないではないだろうか。特に、運動会や
委員会、学校行事などどうしても学校全体に関わることなどで、一人の意見が押さえら
れてしまうことはないだろうか。この場合も子どもに有無を言わせず集会のことだから
という大義名分のもと子どもたちの貴重な昼休みの時間を奪ったことになる。
たとえば、昼休みが20分あるとすれば、もう20分時間を延ばし、その20分の取
り扱いを学級で使ってもよし、委員会で使ってもよし、休みにしてもよしというような
子どもの昼休みを保障した自由時間を設定できないであろうか。休み時間は大人と同様
子どもにとっても認められる市民的権利であると思う。
A 持ち物検査はやめよう。
内容:よく学校に関係ない物を持ってきてはいけないということで持ち物を検査するこ
とがある。
考えたこと:我々がもし、持ち物を検査するということを強制されたらどうであろうか。
子どもの権利条約は子どもに市民的権利を認めるということである。我々にも
認めにくいことが指導という名の下に子どもにも認められるのはおかしいと思
う。
・ 現在すでに委員会活動は時数にカウントされておらず、子どもの自治的活動が制限されている
現状がある。また、今後学校スリム化でそれは一層困難なものになっていくことが予想される
・ 教員の中に「わがまま」と「権利」についての区別ができにくく、全てわがままとしてとらえ
ている面はないであろうか。今一度わがままと権利の概念規定をする必要があると思う。
・ 平等という観点から児童会の執行部は不必要という考えがあり、児童会の組織作りができにく
い状況が生まれつつある。真の平等とは何なのかを考えていくべきである。
・ 権利条約を、教員・子ども・親に知らせていかなければならないが、この権利条約は専門分野
である弁護士を呼び学習していくことが権利条約を正しくまたその重要性を理解していくの
に必要であると思う。
7、関係条文
第12条〔意見表明権〕
1、締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべて事
項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の
意見は,その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
第13条〔表現・情報の自由〕
1、児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印
刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種
類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
第14条〔思想・良心・宗教の自由〕
1、締約国は、思想・良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する。
第15条〔結社・集会の自由〕
1、 締約国は、結社の自由及び平和的な集会の自由についての児童の権利を認める。
8、終わりに
子どもの権利条約を学校に根付かせるにはまだまだ課題は多いと言えます。しかしそのために
はまず教師・ 父母・地域が従来の子供観を転換していくことから始めなければならないと思います。
このことはもちろん大人の課題です。時間のなさにとかく指示、命令が多くなってしまう学校現場、
しつけという名のもとに行われる体罰・管理教育、まだまだ多方面に渡って子どもの権利が保障さ
れにくい現実がありますが、まず自分の学級・学校・子どもから地道に権利条約を生かし、その輪
を広げていきたいと思います。学校に地域に子どもの権利条約を根付かせようと考えるみなさん共
に権利条約の精神を学び、実行していきましょう。