子どもの権利条約の行方は?

 〜 権利条約が日本で批准され正式に発効してから10年がたつ。しかし、この条約の精神が学校に地域に根ざしたかと考えるとどうであろうか?根ざすどころか、益々影が薄くなってきているような気さえもする。その理由を考えたとき、色々な理由が想像される。政府の広告義務の怠慢、大人の意識の低さ、権利に対する拒否反応などなど・・。その中でも体罰についての学校における教職員の意識は以前より高まり、教育委員会の方からも指導があったりもする。しかし、これは権利条約の観点から体罰を禁止したということでもない。むしろ、教員の不祥事等を恐れての指導の感もある。文部科学省では早くも新指導要領が行き詰まり、学力低下に批判が集まった。そして、遠山文部大臣の「学びのすすめ」が出されて以来、基礎学力がクローズアップされ、学力フロンティアスクール、スーパーサイエンス・ハイスクール、スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・スクールなど学力向上に文部科学省は大きく舵を取り直した。そのような混乱した教育界で、基礎学力の確保・不登校・学級崩壊等にばかり関心が集まり、子どもの人権にはほとんど関心が集まっていないといってよい。しかし、今現場が抱えている問題と権利条約の問題はまったく別のものであろうか。そうは思わない。どれも根底で深くつながっている問題であるといえる。具体的に言えば子どもの意見表明権、自己決定権を尊重することは学級崩壊を防ぐ一つの役割を持っている。わかる楽しい授業の保障は子どもの基礎学力にもつながる。このように子どもの権利を改めて考え直すことは、今の教育問題の解決の糸口にもつながるように思う。 〜

1.権利条約が広がらないのはなぜ?

  ・大人が権利条約について知っていない。

  ・学級崩壊、いじめ、不登校、学力低下など教育に関する問題が山積しており、権利条約どころではない。

  ・権利についての考え方について大人のコンセンサスがない。

  ・日本の文化になじまない。(自由や権利より、義務や責任が重視される社会)

  ・子どもの荒れから子どもの権利に関する拒否反応が大人・子ども自身にも生まれ始めている。

2.学校・地域でなすべきことは?

  ・権利条約というように大上段に構える姿勢でなく、子どもの意見に耳を傾けようということなら始められる。

  ・権利と義務、自由と責任についての具体的な事柄を通し、コンセンサスを図る。

・教師と生徒、教師と保護者が対立関係的な考え方に陥らずに協力関係を築くようにする。(教授権の確立、学校にも弁護士をという意見もあるが・・?)

  ・権利条約の授業を年間のカリキュラムに入れる。

  ・学級会、生徒会の活動の活性化による民主主義の学習を。

  ・早い時期からの家庭における自主、自立の精神の育成(自己決定の機会を多く)

  ・教育行政に頼ることなく、自主的な運動を。

  ・生徒指導、生活指導の中に権利条約の視点を取り入れ考えてもらう。

3.権利に対する考え方の違い・とまどいの克服について

     ・権利の視点から日本文化を考える。

   (ex)子どもが自立する基盤が弱い。(欧米の父性中心の社会と異なり、母性中心の社会)

      新球団参入にあたってプロ野球問題に見る封建制(未だ、封建的な支配体制が強く残っていることが明らかになった。)

      日本人の良さとされる謙譲の美徳

      儒教に見る孝の精神

        ↓

     個と公をどのように捉えるか?

     そのような日本社会があるが、時代としては能力主義、自由主義にどんどん進んでいる。そこから自由と責任、権利と義務の問題も発生しているのではないだろうか?

  ・権利の視点から古い体質の学校文化を考え直す。

ex)小学校で掃除は必要か? 号令は必要か? 児童・生徒の興味関心にそぐわない押しつけ授業は子どもの学ぶ権利を保障しているのか? 学級目標に児童・生徒の考えは反映されているか?

   小さいときから「なぜ、きまりを守る必要があるのか?きまりとは何か?自由とは?権利とは?」というようなことを大人は体験させたり、考えさせてきているか? 校則がただの押しつけになっていないか? 子どもの意向を無視したきまりでよいのか?・教師主導型の学習体型が中心ではないか?   とかく指導が強化されて、子どもの自己決定を尊重していないのではないか。

4.おわりに

   権利条約が日本に根付くのは、いつのことになるか分からないが、諸問題に対し「権利条約に照らし合わせると違反しているからこの問題は・・・」、というスタンスで大人、子どもに迫っていく方   法は権利条約の精神の本当の理解の仕方として果たしてよいのであろうか?また、権利という言葉の乱用は権利という意味を正確に理解されないまま使われるとそれも誤解をまねく危険性も    ある。

日本で子どもの権利条約の精神が大人に根付くにはまず大人の権利というものが根付いてない土台の上には、なかなか難しいと思う。大人に知らせることはもちろん大切であるがむしろ子どもにしっかりと権利条約を自分たちの権利として学習させ、体感・把握させていくことが権利条約を根付かせる一番の近道なのかもしれない。


                                          もどる