たくまさん。
特に映画ファンという訳ではないのに、何故か映画にまつわる思い出が多い。
その中のひとつに、今でも思い出すとジワァ〜〜〜と汗が出てしまう思い出があります。

ちょうど15年前(高校2年)のクリスマスのこと。
僕は当時密かに思いを寄せていた彼女をデートに誘い出すことに成功し、僕は有頂天になっていた。
なんたってその彼女に3年間も片思いをしていて、友だちにも打ち明けずに
それこそ死ぬ気で告白した相手だったから。

まさか僕の告白にOKしてくれるなんて思ってもいなかったものだから、デート当日まで
夢を見ていたような、信じられない気分だった。
だから約束の場所に、約束の時間が来ても「来ないかもしれないなぁ〜」と
ぼんやり行き交うカップルを眺めたりしていた。

そこへ彼女がグレーのコートを着て「ごめんね、待った?」と来てくれた時には
思わず「ありがとうございます!」と叫びだすところだった。
それほどうわずっていて、「じゃあ、行こうか」と促してはみたものの
どこへ行けば良いのか、何か気の効いた話題はないか、手を繋いでも良いのか、
(いや、いきなり手を繋いだらビックリするだろう)
とにかく普通じゃなくて、必死でさり気なく見せかけていたけど
多分彼女は僕の緊張状態を見越していたんだと思う、ふいに「映画でも観に行かない?」と
デートの方向を僕に示してくれて、バクバクしている僕の心臓を少しだけ落ち着かせてくれた。

映画館は待ち合わせ場所からすぐのところにあって、二人で人込みを歩いていくうちに
あれほど躊躇われたことだったのに、彼女と自然に手を繋ぐことが出来た。

映画館に到着してみると、クリスマスということもあって、その冬ロードショーされていた映画は
立ち見覚悟の勢いで入り口に人が並んでいる。
そこで反対側の映画館へ。
そこではリバイバル上映の『カサブランカ』をやっていた。
白黒でどんな映画なのかもわからないし、古めかしい感じで気乗りがしなかったけど
せっかく彼女が「映画を観に行かない?」と誘ってくれたのだ。
なんとしても今日は映画を観て帰るぞ!という意気込みで二人分のチケットを買い、館内の後ろの方の席に二人で並んで座った。

申し訳ないけど、映画の内容はほとんど覚えてません。
ただあの有名なシーン。
「君の瞳に乾杯」と、ハンフリー・ボガードがイングリット・バーグマンに囁く場面は覚えている。
映画を観てる時は、何の飾り気もない普通のセリフに思えるのに、映画が終わった後
彼女と向き合って喫茶店で座っている時には、あのセリフが頭の中でこだまして
あんなこっぱずかしいこといえるわけねぇだろ!と、またもや僕をガチガチに緊張させてしまった。


彼女とは結局僕が大学に進学した時に別れてしまった。
嫌いになったわけじゃないけど、それぞれ行く道が違っていたような気がしたから。
多分彼女も同じように感じていたんじゃないかな。

あれから10年。
ひょっとしたら僕が、『カサブランカ』の中のハンフリー・ボガートのようにカッコいい男だったら
彼女と別れることはなかったかもしれない。
そして僕がカッコいい男だったら、今の嫁さんと一緒にお茶漬けをすすったりしていなかったかもしれない。
なんにしろ、僕の人生の中の恋愛の布石になっていることは間違いないようだ。

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