「ねえ、どれが いい?」
ジョン・バーニンガム/作
まつかわまゆみ/訳
評論社
この絵本は読み聞かせをしていても、子どもたちに大変人気のある絵本のひとつです。
受けを狙ったり^^笑いが欲しい時、この絵本は必ずその期待にこたえてくれるので、とても重宝しました。

この絵本は物語り絵本ではありません。合計16問の究極の選択集です。
まず最初の選択は、男の子が自分の家から犬と一緒に出て来る場面から始まります。
そして唐突に「もしもだよ、君んちの周りが変わるとしたら、大水と、大雪と、ジャングルと、ねえ、どれがいい?」と始まります。
じっくり悩んでる暇はありません。子供たちも直感で選んでいきます。
子ども達が大爆笑しながらも、真剣に悩んでしまう問題が「どれなら食べられる?蜘蛛のシチュー、カタツムリのお団子、虫のおかゆ、蛇のジュース」というもの。ナンセンスの極みです!
そして、その次の問題が「二千円でトゲのあるイバラに飛び込むのと、一万円で死んだカエルを飲み込むのと、二万円でお化け屋敷に泊まるのと、どれがいい?」この辺にくると、読み手の私までちょっとマジで考えてしまいます(笑)

私はこの絵本を、2年前の西部大地震があった後、当時1年生だった長男のクラスで読み聞かせをしました。

地震のあった平成12年10月6日午後1時30分、私は自宅で友だちとお茶を飲んでました。子ども達はそれぞれ幼稚園と小学校です。主人は仕事でした。後で見たテレビニュースでは「マグニチュード6」と発表されてました。
地震のあった瞬間、私は阪神淡路大震災のテレビ画面から流されてきた、あの悲惨な情景が頭に浮かびましたが、救急車や消防車のサイレンも聞こえてこなかったし、家の窓から見える景色にも変化が無く、その後子ども達も無事に帰ってきて、主人の無事も確認できました。
その後のマスコミ報道で、被害はあったものの死者が出なかったことで胸を撫で下ろしていました。

ところが、少々神経質な長男の様子がいつもと違ってました。
朝、元気な声で「行って来ます」と出掛けたと思うと、顔に恐怖の色を浮かべて玄関で立ち竦んでいます。
ゴーゴーと吹く大風が恐い、雷はもちろん、川が氾濫するんじゃないかと思えて大雨が恐い。どれもこれも学校に居る時に体験した大地震を思い起こさせるのでしょう、学校へ行くのもやっとのこと。私が学校まで車で送った日もありました。

さて、絵本の読み聞かせの当日です。私はなるべく明るく、ユーモアのある絵本を選んで教室に入りました。
そして「ねえ、どれがいい?」と読みは始めると、笑いながら、悩みながら、あるいはじっくり考えながら、絵本に登場する男の子と一緒にSF小説に出てくるような冒険を、どの子も楽しんでいます。
「どれを手伝う?妖精の魔法、小人の宝捜し、魔物のいたずら、魔女のシチュー作り、サンタクロースのプレゼント配り」この問題などは童話の中のひとコマのようです。
あるいは「お父さんが学校で踊っちゃうのと、お母さんが喫茶店で怒鳴るのと、どっちがいや?」というような、顔から火が出るような思いもした後、この絵本は最後に「それともさ、もしかしたら本当は、自分のベッドで眠りたい?」と羽布団に包まれてるような安心感を与えてくれます。

翌日の担任の先生から「地震のあった後、不安を感じてる生徒が何人かいましたが、絵本にあったような問題を自分達で考えて出し合うという遊びが流行り、クラスの雰囲気が以前のように明るくなりました」というお便りを貰いました。
きっと絵本が無くても子ども達はすぐに明るさを取り戻したのでしょうが(笑)、数日後、たまたま出会ったクラスの女の子に呼び止められました。そして「あのねぇ、私やっぱりジャングルがいいな!」と教えてくれました。
その子はずっと考えていたんでしょうかね?
そして恐がり屋の長男も少しずつ平静さを取り戻し、元気に毎日を過ごしています。
それまでに何度か「読んで」とこの絵本を持ってきていたので、この絵本の助けもあったのかもしれませんね!





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