犬」

うちのだりあのさいた日に 酒屋のクロは死にました。

おもてであそぶわたしらを、 いつでも、おこるおばさんが、
おろおろないておりました。

その日、学校でそのことを 
おもしろそうに、話してて、

ふっとさみしくなりました。




金子みすヾ童謡集『わたしと小鳥とすずと』(JULA出版局)より

私が金子みすヾを好きになったのは、この詩がきっかけだった。
同じような体験を子どもの頃にしたことがある。
近所では変わり者で通ってて子どもが大嫌い(たぶん)なおばさんがいた。
いつもしかめっ面してて、子どもが騒いでいると「しっ!!」っと戒める。
道路に絵を描いて遊んでいる横で水をまいたりする。
みんなそのおばさんが大嫌いで関わらないようにしていた。おばさんの方も
好都合に思っていたようだった。

ある日、おばさんが背を丸めて海辺へ向かって何も言わずに歩いていく。
何か小さいものを大事そうに両手に包んでいた。好奇心の強い子が覗きに行って
「おばさんのインコが死んだんだ」と報告した。
子どもたちのひそひそ声が聞こえなかったはずはないのに、振り向きもせず砂浜へ
埋葬しに歩いていく。
その背中に向かって一人の子が「ざまぁみろー」とはやしたてた。
そしてみんなくすくす笑った。
私も笑っていた。

もうすっかり忘れていた子どもの頃のひとコマ。
多分その時は後ろめたいような罪悪感など感じてはいなかったと思う。
ただ何か気に掛かる、やり直さなきゃいけないような心残りが
この詩を読んだ時にハッキリと解けていった。





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