「つもった雪」



上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。

下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。

中の雪
さみしかろな。
空も地面もみえないで。




金子みすヾ童謡集「わたしと小鳥とすずと」JULA出版局より。







車の後部座席に子どもを乗せて、ドライブしている時のことだった。
車の窓から眺める景色を話題に「もうすぐ雪が降るね」と、とりとめのない会話が続いていた、その時だ。
子どもが突然、前方の道路を指差し「お母さん、ネコが死んでるよ!」と叫んだ。
そのネコはいつからそこに横たわっていたのだろうか。
車に跳ねられたであろうその死骸は、人目にさらしながら道路の真中に放置されている。
私はその死骸を確かに眼で確認し、そのまま車を走らせた。
ブレーキを踏むことなく・・・。
「どうして止めないの?」「お墓を作ってあげようよ」子どもが必死に問い掛ける。
私は答えを探しながら車を走らせた。
(どうして車を止めなかったのだろう?)

私にはわかっている。
『誠実』という殻の中に潜む、隠し切れなかった『偽善者な自分』が確かに存在しているのだ。

子どもは視界からネコが消えるまで、いつまでも後ろを見ていた。
ネコの魂が天に昇るのを確かめるように・・・。












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