「灰」

花さかじいさん、はいおくれ、
ざるにのこったはいおくれ、
わたしはいいことするんだよ。

さくら、もくれん、なし、すもも、
そんなものへはまきゃしない、
どうせ春にはさくんだよ。

一度もあかい花さかぬ、
つまらなそうな、森の木に、
はいのありたけまくんだよ。

もしもみごとにさいたなら、
どんなにその木はうれしかろ、
どんなにわたしもうれしかろ。
金子みすヾ童謡集「明るいほうへ」 JULA出版局より。
 季節が冬に移り、花が終わったプランターを片付けながら、ふと思い出したことがある。
一昨年の秋、4歳になった息子にも何かお手伝いをと思いついた花壇の水やり。
「毎日ちゃんとお水をあげたら綺麗な花が咲くよ」と一言付け加えて、全てを彼に任せることにした。
最初のうちは張り切って、そのうち面倒くさそうに・・・、最後には嫌々ながら。
それでも雨の日以外は忘れずに水をかけてあげていた。
やがて芽が出、茎が伸び、つぼみが出来るとその都度誇らしげに報告に走ってきてたりした。
そして遂に、よく晴れた春の日の朝、チューリップが花開いていたのだ。
息子はピンクに咲いたチューリップに向かって
「はじめまして、よろしくね」と覚えたての挨拶を披露した。
それからチラリと私の方を見て、恥ずかしそうに
「だけど、ボクはずっと前から知ってたよ」とつぶやいた。
まるで秘密を打ち明けるように。

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