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[「月のひかり」 一 月のひかりはお屋根から、 明るい街をのぞきます。 なにも知らない人たちは、 ひるまのように、たのしげに、 明るい街をあるきます。 月のひかりはそれを見て、 そっとためいきついてから、 だれも貰わぬ、たくさんの、 影を瓦にすててます。 それも知らない人たちは、 あかりの川のまちすじを、 魚のように、とおります。 ひと足ごとに、こく、うすく、 のびてはちぢむ、気まぐれな、 電灯のかげをひきながら。 ニ 月のひかりはみつけます、 暗いさみしいうら町を。 いそいでさっととびこんで、 そこのまずしいみなしごが、 おどろいて眼をあげたとき、 その眼のなかへもはいります。 ちっともいたくないように、 そして、そこらのあばら屋が、 銀の、ごてんにみえるよに。 子どもはやがてねむっても、 月のひかりは夜あけまで、 しずかにそこに佇ってます。 こわれ荷ぐるま、やぶれかさ、 一本はえた草にまで、 かわらぬ影をやりながら。 よみがえる |
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金子みすヾ童話集「このみちをゆこうよ」 JULA出版局より。 | ||
当時4歳だった次男と夜の散歩をしていた時のこと。 「おかあさん、お月さんがずっとついてくるよ」と後ろを振り向かないように 硬直して、しかもヒソヒソ声で教えてくれた。 私も同じように」振り向かないまま「どうしてかなぁ?」と尋ねると 「僕のことが好きなんじゃない」とつぶやいた。 しばらく歌を歌ったり、すぐに終わってしまうしりとりをしながら散歩を続け、 ようやく家の中へ入ろうという時、意を決して次男は振り向き大きな声で 「お月さん、バイバイまたね」と言ってピシャリと戸を閉めてしまった。 ちょっと乱暴に思えた次男の仕草に 「なぜあんな事をしたの?」と寝る前に聞くと 「僕の家は明るいでしょ、だからお月さん消えちゃうよ。それにお外のみんなが寂しがるから」 と打ち明けてくれた。 この詩を読むとその時の布団のぬくもりがよみがえる。 そして、空を見上げると今夜も変わらず月が照らしていた。 |