「星とたんぽぽ」


青いお空のそこふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまでしずんでる、
昼のお星はめにみえぬ。
    見えぬけれどもあるんだよ、
    見えぬものでもあるんだよ。

ちってすがれたたんぽぽの、
かわらのすきに、だァまって、
春のくるまでかくれてる、
つよいその根はめにみえぬ、
    見えぬけれどもあるんだよ、
    見えぬものでもあるんだよ。
金子みすヾ童謡集「わたしと小鳥とすずと」JULA出版局より。
4年前の初夏、日差しが少しきつく感じられた休日の午後。
風邪気味だった次男を主人に預けて、当時5歳だった長男を連れて近所の公園へ行った。
私は散歩のつもり。長男はあと少しで乗れそうな一輪車の練習をしたくてだった。

公園では他にもたくさんの子ども連れの家族が来ていた。
広場ではビニールシートを敷いてくつろぐ人たちと、走り回って遊ぶ子供達でいっぱい。
一輪車の練習がしたい長男は、平坦な広場を占領したくて、我がままを言い出した。
まだ支えなしには一輪車に乗ることさえ出来ないでいるのに。

やっとのことで長男をなだめ、鉄棒のある一角で練習を再開。
何度も転んで、何度も挑戦する。
何度も、何度も・・・。
とうとう泣き出してしまった。
擦り剥いた膝小僧が痛いと言って泣き、一輪車に乗れないと言っては泣き、
いつまでたっても乗れるようになれない自分が、不甲斐なくなって泣いた。

そして、母親の私に八つ当たりをした。
一輪車のせいにして、蹴ったり投げ飛ばしたりして怒りをぶつけた。

泣いて、怒って、また練習して・・・その繰り返し。

「そろそろ帰ろうか」と私が声を掛けても、「まって!もう少しだから」と一輪車を構えた。
「もう少し、あともう少し」
もう少しで乗れそうなのに・・・息子の一生懸命さが伝わってくる。

「じゃあ、少し休憩ね」と言って、息子に冷たいジュースを手渡した。
二人でベンチに並んで腰掛け、一気にジュースを飲み干した。
「また練習しに来ようね」
「うん、また来よう」
「この次はきっと乗れるようになるよ」
「うん、きっとね」

夕暮れが近づいた頃、とても静かな時間だった。






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